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ブラック企業の現状と解決。NPO法人POSSE今野代表インタビュー
この記事の専門家
今野 晴貴代表
NPO法人POSSE
「ブラック企業」とは、労働者を長時間労働やパワーハラスメントなど過酷な労働環境で若者を使いつぶすような企業のこと。
リーマンショック以降から広まり、2013年には流行語大賞にも選ばれるなど、皆さんにとっておなじみの言葉となりました。
ブラック企業の存続は、若者の将来を奪うだけでなく、日本社会や経済にも悪影響を及ぼすことにつながります。
今回は、若者の格差・労働問題に取り組み、ブラック企業をなくすために奔走されているNPO法人POSSE(ポッセ)の今野晴貴代表にお話をうかがいました。
NPO法人POSSE 今野代表インタビュー
電話、メール、事務所への来所による労働相談を中心に、若者の「働くこと」に関する様々な問題に取り組まれているNPO法人POSSE(ポッセ)。
ブラック企業の現状と個々ができる解決への行動について、今野晴貴代表にインタビューしました。
どのような方からの労働相談が多いですか
さっそくですが、NPO法人POSSEでは長時間労働、賃金未払いといった様々な「働くこと」に関する労働相談を受けられていますが、どのような方からのご相談が多いのでしょうか。
勤続年数については1年未満という方が半数を占めており、入社前に聞いていた条件と現実の労働条件が異なっていて、長時間労働などの過酷な働き方を強いられているようなケースが多いといえます。
POSSEを結成した理由の一つが「若者が気軽に相談できる窓口を作りたい」と考えたことでした。当時は、ブラック企業という言葉が流行る前でしたから、若者が職場で不当な扱いを受けても、それをなかなか言葉にできず、泣き寝入りしてしまうことが多かったんです。
いきなり弁護士や労働組合に相談するというのは、若い人にとっては敷居が高いですよね。
その姿勢は現在も変わっておらず、若者が直面しやすい問題やトラブルに関する情報をたくさん発信し、どうしたら解決できるかを伝えるようにしています。
その結果、若い世代の多くの方々に相談窓口を利用していただき、そのサポートをすることができているのだと思います。
相談内容はどういったものが多いですか
固定残業代が適用されているなど、いわゆるブラック企業に典型的な労務管理がなされていることによって、低賃金の長時間労働が課されているようなケースです。
過労やパワハラ、セクハラによる被害の結果、ご本人が精神疾患を発症してしまっていることも非常に多いです。体調不良を訴えて退職を申し出ても、「人手不足」のなかで退職させてもらえないというような相談もあります。
(出典:「労働相談実施状況(2018年4月1日~2019年3月31日)」NPO法人POSSE より)
内定式を終えて、入社する直前の段階で「営業職には残業代が出ない」と説明を受けたそうです。この会社では「事業場外みなし労働時間」が適用されており、実際に働いた時間とは関係なく「みなし労働時間」によって給与が計算されていたのです。
「営業はこれが当たり前」だと先輩に言われ、「そういうものか」と納得していたそうですが、実際に働き始めると、朝8時から夜9時まで働く毎日。残業時間は月80時間を超えていましたが、どれだけ働こうとも、業績手当の3万円以外に残業代が支払われることはありませんでした。
この方は、長時間労働を続けた結果、徐々に体調を崩し、「適応障害」と診断され、退職を余儀なくされてしまいました。
なお、裁量労働制や固定残業代はほとんどが違法な形で運用されているので、実際の労働時間をしっかり記録しておけば、後からでも未払いの残業代を請求することができます。
近年の相談件数の推移はどのような傾向にありますか
そうしたなかで私たちは、「あなたが悪いのではなく、違法な働かせ方を強いる会社に責任がある」と本人を勇気づけて奮い立たせ、その方が法的な権利を行使するのをサポートしてきました。
「ブラック企業」が社会問題として認識されるようになったことによって、労働問題をめぐる世論の潮目が明らかに変わったと思います。いまや、法律を守らない会社の責任を追及するのは「当たり前」のことになっているのです。
労働組合に入って会社と交渉したいという方も多くいらっしゃいます。
相談から解決までの流れを教えてください
全て無料で対応しており、ご相談いただく回数に制限はありません。
労働相談では、まず、相談者の方が置かれた状況を細かく聞き取り、ご本人が何を求めたいのかを確認します。その上で、相談員が法的なアドバイスを行い、状況を改善するためにどのような方法があるかをご説明します。
法的な問題になると「この後どんな機関にどんな手続きが必要なの…?」という不安が大きいと思うので是非お聞きしたいのですが、相談ですすめられる改善方法とは、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
どの方法を取るかは本人の意向によるので、こちらからはそれぞれの方法の特徴や長所・短所を説明して、本人の選択をサポートします。
相談者の方が希望する場合には、労働組合や弁護士を紹介することもあります。
ちなみに、費用については、弁護士に依頼する場合には、着手金と成功報酬が必要になります。労働組合に加入する場合には、組合の規約に従い、組合費を納めることになります。
相談者に必ずお伝えしていることはありますか
しかし、労働法を守らない会社にそれを守らせていくというのは、誰が見ても正しいことです。また、会社から自分の権利を侵害されたならば、それに対して補償を求めていくのは当然のことです。
声を上げることを躊躇う相談者の方には、それが「正しいこと」なんだということを伝え、勇気づけるようにしています。
もし不当な目にあった方が泣き寝入りしてしまうと、他の人が同じ被害に遭う可能性が高いです。パワハラやセクハラを行う人は、問題にならない限り人権侵害をやめません。会社に是正を求めることは、他の人を守ることにもつながるのです。
逆に、異議を唱える人がいなくなってしまえば、ブラック企業が社会に蔓延してしまいます。個人が法的な権利を行使することは、社会全体の労働環境を改善していくことにもつながっていくのです。
混乱して自分自身でも問題が整理できておらず、「どうしていいか分からない」と相談に来られます。このような先の見えない不安な状況が一番辛いと思います。
このような場合、相談員と話をして問題を整理していったり、事態を改善するために証拠集めに動いたりするなかで、徐々に客観的に状況を捉えられるようになり、「精神的に楽になった」という方も多くいらっしゃいます。
解決への道を示すことが精神面の安定につながるため、相談の現場ではこの点を意識しています。
学習会の内容について教えてください
「労働相談」というと難しく感じると思いますが、いま相談受付を担当しているスタッフも、POSSEに参加して初めて労働法を勉強したという人がほとんどです。最初は法律の知識がなくても大丈夫です。
学習会は、毎回テーマを決めて10~20人くらいで行っており、解雇、パワハラ、賃金不払いといった問題類型ごとに、相談者にどんなことを確認してどのようなアドバイスを必要があるかを学んで行きます。
実際に相談を受けている場面にも同席してもらい、経験を積んでいくことによって、徐々に様々な相談に対応できる力が身に付いていきます。
最近では、アルバイト先の労働環境に抗議したことによって日本語学校から退学処分を受けたフィリピン人留学生の支援を行っていることもあり、外国人労働者の問題に関する学習会を行いました。
活動に参加したボランティアの方々は「これまで全然知らなかった社会の問題を知ることができた」と口々におっしゃいます。
ブラック企業に悩む方へメッセージをお願いします
しかし、会社が労働法に違反して無理な働かせ方をしているのであれば、あなたが悪いのではなく、会社に問題があります。「会社の常識」や「業界の常識」は正しいとは限りません。
このことを覚えておいて、何か疑問を感じた時には、無理をせず、私たちに連絡をいただければと思います。苦しい状況でも、社会には必ず助けてくれる人がいるので、そのことを忘れないでいただきたいと思います。
ブラック企業にまつわる変化や現状、そして解決のためにどうすべきか、詳しくお話を伺えて、より「我慢をしないで正当な権利を訴える」ことがきわめて当然であることが理解できました。今野代表、大変ありがとうございました。
ブラック企業についてのアンケート結果
ブラック企業に関するニュース、またはSNSなどで「自分の勤めている会社はブラックだ」「ブラックかもしれない」という投稿を目にすることが増えてきました。
アンケート調査をもとに、実際に自分の勤める会社がブラック企業だと思っている人がどれくらいいるのか、またその理由、どのような人に多いのか、実態をまとめてみました。
約3割が自分の会社はブラック企業だと思っている
株式会社リビジェンがおこなったアンケート調査によると、回答者の 約3割がブラック企業だと思っていることがわかりました。さらに、約1割は「 非常に思う」とも答えています。
(出典:株式会社リビジェン「ブラック企業」についての調査 全国の社会人男女500人対象 2013年実施)
また、連合総研が定期的におこなっている「勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート」の結果によると 、自分の勤める会社がブラック企業だと思っている人は特に20代と30代に多いこと、男性の正社員に多いことがわかっています。
(出典:第32回「勤労者短観」調査結果の概要 2016年10月実施)
ブラック企業だと思う理由
また、前述の株式会社リビジェンがおこなった調査では、自分の勤める会社がブラック企業だと思っている理由について、
- パワハラがある
- 自社の製品を強制的に買わせる
- 長時間労働をさせ、残業代はつかない
- 年間休日が50日しかなかった
- うつ病の社員が何人か出ている
などの回答がありました。なかには「上司が同僚にケガをさせたが、会社は上司を守り、同僚は心身の不良で退社するはめになった」など耳を疑うようなコメントも含まれています。
NPO法人POSSEの労働相談実施状況
実際に、NPO法人POSSEにも、年間1,289件(2018年4月1日~2019年3月31日)の労働相談が寄せられています。
相談者は女性より男性の方がやや多く、正社員からの相談が最も多いのですが、学生による「ブラックバイト」に関する相談も増えているとのことです。
(出典:雇用形態別の相談件数(計1,061件)「労働相談実施状況(2018年4月1日~2019年3月31日)」NPO法人POSSE より)
相談内容では「賃金」に関する相談が最も多く「パワハラ」「心身不良」と続きます。
また、相談者の属性を見てみると、全体の7割が勤続年数3年未満、全体の半数は15~34歳となっており、やはり圧倒的に若者からの相談が多く、しかも入社して短期間でトラブルに遭遇しているケースが多いことがうかがえました。
(出典:勤続年数別の相談件数(計1,035件)「労働相談実施状況(2018年4月1日~2019年3月31日)」NPO法人POSSE より)
(出典:年齢別の相談件数(計1,177件)「労働相談実施状況(2018年4月1日~2019年3月31日)」NPO法人POSSE より)
労働相談は、従業員数50名以下の中小企業に勤める人が半数を占めています。しかし、従業員数500名以上の大企業に勤める人からの相談も2割近くありました。大手企業なら安泰、ということでもなさそうです。
職業は、医療福祉、情報通信業、製造業や小売業・卸業などで、専門的・技術的職業に従事する人、事務や販売に従事する人からの相談が特に目立っていました。
半数は誰にも相談していない
ブラック企業などを含む労働問題に遭遇したとき、私たちはその相談先として労働組合や労働基準局などを選ぶことができます。しかし必ずしも皆さんが、これら既存の機関に相談しているというわけではないようです。
アンケート調査で「勤務先がブラック企業だと感じた人の半数近くは、誰にも相談していない」という実態が報告されています。
(出典:日本労働組合総連合会「ブラック企業に関する調査」◆勤務先がブラック企業と感じることを、誰か・どこかに相談したことがあるか)
相談したとしても家族、友人といった身近な人を選んでいる人が多く、労働組合や労働基準局に相談している人はほとんどいないのが実態です。
アンケート調査の結果から、「ブラック企業かも」と悩む人の多くが入社して間もない若者であり、専門の窓口へ相談している人はほとんどいないことがわかりました。
自分のこととして置き換えて考えても、やはり「どこに相談すればよいかわからない」「相談する勇気がない」という気持ちにはなりますよね。
もしかすると、既存の相談窓口は敷居が高く、相談できずに泣き寝入りしている若者も多いのではないか、とも感じました。
NPO法人POSSEの活動内容をご紹介
最後に、今回のインタビューにご協力いただいたNPO法人POSSE、代表の今野氏について紹介したいと思います。
NPO法人POSSEは20代中心の若者が主体となって、若者の労働問題や貧困問題などに取り組む特定非営利活動法人です。
NPO法人POSSEが設立したのは2006年、今野代表を中心に大学で労働法を学ぶ大学生などが集まって「若者の労働相談を受ける」というコンセプトのもとに活動が始まりました。
現在は、東京の拠点と仙台市にある「仙台POSSE」の2か所で活動しています。さらに京都市で関西圏の大学生を中心とした「京都POSSE」も発足するなど、会員の活動も幅が広がりつつあります。
NPO法人POSSEの活動内容と実績
NPO法人POSSEは、運営にかかる費用を会費、助成金などによってまかない、会員がグループごとにわかれてそれぞれの活動をおこなっています。
労働相談のほか、生活相談や東日本大震災の被災者支援活動など幅広い活動を展開しています。
- 労働相談
- 長時間労働、セクハラ、パワハラ、離職問題などの労働相談を受け付けています。相談を受けた後、職場の状況を確認したうえで具体的な解決方法をアドバイスし、相談内容によってはユニオン(労働組合)や弁護士など専門機関を紹介することもあります。
- 労働法教育
- 職場で違法な状態に遭遇したときの対処法を身につけてもらう目的で、高校生や大学生に労働法を普及しています。出張授業や教育関係者向けのセミナーなどをおこなっています。
- 生活相談
- 生活保護の利用、社会保険、奨学金返済などのトラブルに関する相談を受け付けています。相談を受けた後、問題の状況を確認したうえで、手続きの同行、情報提供などの支援をおこないます。
- 調査活動
- ボランティアスタッフが若者の雇用に関する調査をおこない、結果を公表しています。
- 労働法セミナー
- セミナーやシンポジウムを開催し、労働に関するさまざまな問題提起をおこなっています。
- 相談ホットライン
- 月1回程度、相談ホットラインを開催し、無料で労働相談や生活相談を受け付けています。
- 奨学金問題への取り組み
- 経済困難で奨学金が返せない若者の相談、サポートをおこなっています。
- 仙台POSSE
- 2010年に仙台に発足し、東日本大震災後は就学支援や引越し手伝いなどの被災者支援活動をおこなっています。活動に対し、厚生労働大臣から感謝状が贈呈されました。
- POSSEの発行
- 雑誌編集部にて、労働問題総合誌「POSSE」を年4回発行しています。労働・貧困問題などをテーマに、政策提言をおこなっています。
- 外国人労働サポートセンター
- 外国人労働者が遭遇している、給料未払い、不当解雇、強制帰国といった権利侵害の問題に取り組み、英語で相談を受け付けています。
NPO法人POSSE代表、今野晴貴氏のプロフィール
今野代表は、NPO法人POSSEの運営に加え、ブラック企業、ブラックバイトという問題の存在とその言葉の意味を世に広めたことで大変有名になりました。
出身地は宮城県、一橋大学大学院で社会学の博士号を取得され、現在はNPO法人POSSと「ブラック企業対策プロジェクト」の代表としてご活躍中です。
2006年頃は、格差問題や若者の非正規雇用問題が大きく取り上げられるようになっている時期でした。当時大学で労働法を専攻していた今野代表は、これらの問題を若者自身の手で打開しようと考え、NPO法人POSSEを起ち上げました。
NPO法人POSSEの発足当時から新聞、雑誌等のメディアにたびたび出演され、雑誌「POSSE」の発行や書籍の著書、講演活動など幅広い活動を精力的にこなされています。
「ブラック」という言葉は、そもそも2000年代からIT企業で働く人を中心に使われていたネットスラング(俗語)でした。
2008年ごろから、ブラック企業をテーマにした小説や映画の影響で、ブラック企業という言葉が徐々に知られるようになったものの、現在ほど多くの人に注目されている言葉ではなかったそうです。
しかし、2010年ごろから、NPO法人POSSEに「ブラック企業ではないか」と相談する人も急増してきたとのことです。
そこで、今野代表は2013年に「ブラック企業対策プロジェクト」を設立されました。以降、プロジェクト代表として各分野の専門家と共同でブラック企業をなくすための活動に奔走しておられます。
同年には、ブラック企業を問題提起する大きなきっかけとなった著「ブラック企業日本を食いつぶす妖怪」が、第13回大佛次郎論壇賞を受賞しました。さらに同年12月には、毎年おこなわれる「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に「ブラック企業」が選ばれました。もちろん受賞席には今野代表がご出席。
一部の労働者や若者のみならず、多くの人がブラック企業という言葉を知ることになったのです。
2014年からは、有識者や専門家の言論が読める「yahoo!ニュース個人」のオーサーとしてテーマ「ブラック企業と労働問題を考察する」という記事を連載しておられます。個人的には、こちらの記事もとてもおすすめです。
NPO法人POSSEは、トラブルにあった方の相談受付はもちろん、労働法を学びたい方、ボランティアをしたい方の参加も歓迎しています。
会員として制度を支援したり、活動に参加したりすることができますので、興味のある方はNPO法人POSSEのウェブサイトをチェックしてみてくださいね。
今野 晴貴代表
NPO法人POSSE
(本記事の情報は2019年8月時点のものです)