歴史ある企業、朝倉染布株式会社がえるぼし最高位認定を取得するまでの取り組み

0 コメント
twitter
はてな
facebook


この記事のご協力者様

朝倉 剛太郎代表取締役社長

朝倉染布株式会社

群馬県桐生市は「西の西陣・東の桐生」といわれる織物の有名な産地です。その桐生の地で染色加工業を120年以上営む「朝倉染布株式会社」は、男性の職域といわれてきた現場へ女性を登用し、女性が躍進する企業作りに成功しました。

2017年には女性活躍推進法に基づく「えるぼし」認定で最高位の3つ星認定、これは群馬県初の快挙となります。

そこには、どのようなきっかけや努力があったのでしょうか。えるぼし最高位認定企業になった取り組みについて、朝倉染布株式会社の朝倉剛太郎代表取締役社長にお話をうかがいました。

えるぼし最高位認定企業、朝倉染布株式会社 朝倉代表インタビュー

伝統と技術を融合させ、他の企業にない製品を世に送り出している朝倉染布株式会社。

女性管理職の割合は業界平均を超え、男女問わず能力を生かして働ける、そして育児休暇は100%取得、100%の女性が産休から復職する(平成30年1月時点)など、女性がいきいき働けるという職場です。

この女性が生涯働きやすい職場を作る取り組みが評価され、女性活躍推進法「えるぼし」最高位認定となったそれまでの道のりについて、朝倉代表にインタビューしました。

朝倉染布株式会社の、えるぼし認定を受けた取り組み

編集者顔画像

厚生労働省ページでは、以下の5つの認定項目

  • 採用
  • 継続就業
  • 労働時間等の働き方
  • 管理職比率
  • 多様なキャリアコース

が掲載されていますが、それぞれについて朝倉染布株式会社が行った取り組みについてお聞きしたいです。

朝倉代表お顔写真

それぞれについて、順にお話してまいります。

・採用
生産現場(交替職場)では、重量物を取り扱うため男性のみの職場であったが、電動バッテリーカーなどを導入して、女性でも希望者がいれば、採用するようにした。

・継続就業
キャリアを積まなければならない業務もあり、育児のために退職ではもったいないので、産休・育休者への一貫したフォロー体制構築により、現在では男性よりも勤続年数が長くなっている。

・労働時間等の働き方
タイムカードを廃止して数十年が経過し、組織長の出勤簿管理となっている。融通も利きやすく、その時々に細やかな対応で働く事ができる。時間外・休日労働も比較的少ない。

・管理職比率
現在、管理職としたは、女性1名のみであるが、リーダーは4名となっている。性別は関係ない資格等級制度と上長の推薦および役員会にて決定される。

・多様なキャリアコース
パート社員から正社員へ、また派遣労働者からの転換等、面談等により実施。

…と、このように取り組みを行いました。

編集者顔画像

朝倉染布株式会社は創業100年をこえる非常に歴史のある企業でいらっしゃいますが、先ほど伺った女性の活躍推進にかかわる制度化には、いつごろから取り組まれていたのでしょうか。

えるぼし認定を受けるために、新たに実施した取り組みはありますか。

朝倉代表お顔写真

えるぼしの3段階の認定を受けられたのは、次のような5項目の職場環境整備を以前より実施していた結果であると思います。

1.定年到達者の再雇用(2001年4月)
5年前より年金満額受給まで再雇用を実施。さらに年金満額後も一定期間業務委託する制度も取り入れた。

2.退職金制度改革(2003年5月)
企業年金廃止に伴い積立方法を変更し、401k・生命保険を導入。定期的に運用状況調査と勉強会を開催した。

3.新賃金・人事考課システム導入(2004年4月)
従業員の姿勢や成果に応じた配分を3年間かけて実施。透明性と公平性、納得性を高め、人事考課基準の明確化を行った。

4.育児介護休暇規定改訂(2005年6月)
ベテラン社員の育児・介護による退職を防ぐため、休業規定を改訂。育児休業は子どもが3歳まで、また短時間勤務やフレックス制度などを子どもが小学校就学始期に達するまで利用できるようにした。

5.男性の育児参加促進(2005年7月)
年次有給休暇を改訂。より育児参加できるように時間単位での取得を可能にした。また、配偶者の出産に伴い2日間の特別休暇を新設。さらに出産・育児休暇取得予定者用のハンドブックを作成。該当者が制度をより活用しやすいようにした。

朝倉代表お顔写真

このように、中小企業ならではの家庭的で働きやすい環境を作り、安定雇用を目指したのです。

取り組みの中で特に大変だったこと

編集者顔画像

制度を整えるまでに、ご苦労されたことにはどのようなことがありましたか。社員の反対意見が多かった、業務形態上実現が難しかった、といった点があればお聞かせいただきたいです。

朝倉代表お顔写真

先ほども述べたように、特別な事はしておらず、社員からの反対意見もありませんでした。

但し、女性が男性と同じような働き方をする上での問題点については、3年に1回くらいの頻度で、女性社員と総務の大塚(女性)とで、面談をしています。それにより困っている点などをヒアリングして改善できる事は取組んでいます。

取り組みを実施したことによる効果

編集者顔画像

女性の活躍推進に関わる取り組みを実施したことで、感じられた効果、社員から聞けて嬉しかった意見などあればお聞かせください。

朝倉代表お顔写真

まずは、女性が多い職場にリーダーをおくことで、課員が相談しやすい雰囲気になりました。

また、女性が生産現場に入ることで、男性社員が重量物の移動等で積極的にサポートしてくれ、面倒見が良いと感じた、という声をよく聞きます。

そして、社員からは育児休暇が非常に取得しやすいとの意見をいただいております。

ここ十数年間は、出産した女性全員が育児休暇を取得し復帰して、現在では短時間の者も2名おります。

女性活躍にかかわる取り組みの展望

朝倉代表お顔写真

弊社は性別に関係なく、だれでもがやる気をもって取り組めば評価してもらえる、という意識が社員の中で根付き、また、多能工化を図ることで、自身のレベルアップにもつながっています。

様々な部署、家庭と仕事が両立できる職場環境を整備していく事で、今まで培ったキャリアを長く活かして安心して働くことができるよう今後も整備をしていきます。

編集者顔画像

随分と前から 定年到達者の再雇用、退職金制度の改革、新賃金・人事考課システム導入、育児介護休暇規定改訂、男性の育児参加促進…といった整備により、中小企業ならではの家庭的で働きやすい職場環境づくりに励まれてきた朝倉染布株式会社。

男女ともに意識がかわって、意欲的、継続的なキャリアの形成が可能になっている理想的な企業のかたちでした。

今後も朝倉染布株式会社では、性別に関係なくたくさんの社員さん方が活躍されるのでしょうね。朝倉代表、本日は大変ありがとうございました。

朝倉染布株式会社の事業内容をご紹介

今回のインタビューに協力いただいた朝倉染布株式会社の事業内容を紹介いたします。

朝倉染布株式会社は、古くから繊維業が栄える群馬県桐生市にある染色整理加工会社です。2007年に朝倉剛太郎氏が6代目社長に就任し、新たな染色加工技術の開発に取り組みながら事業を展開しています

運営事業
  • 染色整理事業
  • インクジェットプリント事業
  • テキスタイル事業
  • 販売事業

染色整理加工とは、繊維製品の外観を変える加工のことで、繊維業の基幹になるものです。

生地の洗練から漂白、染色、仕上げまでの工程を経て、素材の持つ特性を生かしながら、色柄や風合いを出し、機能性を付加させていくもので、製品を完成させるまでに多くの手間やこだわりを必要とします。

朝倉染布は、特に水着、スポーツウェアーなど伸縮性に富む合成繊維の撥水加工などを得意としており、スポーツアパレルなどからも高い評価を得ています。

「濡れない万能風呂敷」として開発された超撥水風呂敷「ながれ」は、2006年からの販売累計が30万枚を記録する大ヒット商品。メディアでも盛んに紹介され「バケツ1杯分の水が汲める」と注目を浴びています。

企業理念
朝倉染布は、企業理念「染色加工を通じて新しい価値を創造し、豊かな生活文化に貢献する」のもとに、独自技術によってお客様の役に立てる事業を展開してきました。

常に省エネ、節電にも気を配り、環境にやさしい企業づくりを心がけています。

そして、お客様の満足につながる事業を展開すると同時に、社員の誰もが経営に参画できる風通しの良い社風を築き、地域に根差したあたたかみのある企業経営を目指しています。

事業内容

朝倉染布は、絹織物の加工をする業者として1892年(明治25年)に創業、1950年ごろから大手繊維メーカーの指定工場として、合成繊維の染色整理加工に力を入れるようになりました。

委託加工による無地染色を主力事業とするほか、近年はインクジェットプリント加工や加工生地の自社製品を販売する事業も展開。ネットショップ「日本流~ニッポンナガレ~」にてバラエティ豊富な超撥水製品を好評販売中です。

染色整理事業
水着やサイクリングウェアなどのスポーツ素材、インナーウェア、医療・介護用の資材など、多様なニーズに合わせて合成繊維を提供しています。

ISO9001認証を取得、独自の加工技術開発にも積極的に取り組んでいます。

繊維加工技術の一例

  • dewelry(R) :驚異的な撥水性と耐久性を持つ。(撥水加工)
  • 吸水SR加工 :綿の3倍の吸水力を持ち、速乾性にも優れている。
  • PEEP CUT(R) :赤外線を遮断する。(水着等の盗撮防止加工)
  • オイルコネクトFSE :水をはじき、油だけを瞬時に吸着する。

驚異の性能を持つ撥水加工、吸水速乾加工は朝倉染布の強みであり、同社が加工した生地の競泳水着を着用した女性スイマーがアテネオリンピックで金メダルを獲得するなど、その技術は世界にも知れ渡っています。

インクジェットプリント事業
大型インクジェットプリンタで、生地にプリント・後加工を施します。従来の染色に比べ工程も少なく、各工程を社内で一貫して行っているので、短期間でコストを抑えたプリント生地が納品できます。

デジタルプリント処理と120年以上の伝統を持つ染色技術のかけ合わせによって、丈夫で美しい染め上がりを約束しています。

テキスタイル事業
お客様のニーズに合わせて、撥水・吸水速乾加工をほどこしたテキスタイルを提供しています。
繊維製品販売事業
 
dewelry(R)などの独自の加工を施した撥水製品ブランド「water dancer products」を起ち上げ、雨の多い日本の暮らしにマッチした製品を販売しています。

企業づくりの取り組み

朝倉染布は、誰もが生涯働きやすい会社作りに力を入れ、育児・介護休業規定の改定、定年後再雇用制度によってベテラン社員や女性社員の定着、人手不足の解消に努めてきました。

また、お客様が満足できる製品を提供するにはまず社員のレベルアップが欠かせないと考え、プロジェクトを活用した人材教育に力を入れて品質改善や社員のキャリア形成を推進しています。

ワークライフバランスの調和がとれた企業を目指して「職場意識改善計画」を以下のように定め、2009年に群馬労働局より職場意識改善計画の企業として認定されています。

  • 労働時間等設定改善委員会を設置し、受付窓口について明確化と周知をおこなう
  • 社内報やミーティングを活用して従業員へ職場意識改善を周知、全体集会を活用して研修会を開催する
  • 計画的年次有給休暇取得促進とノー残業デーの検討など労働時間等の設定改善をおこなう

また、2015年から3年においては、次世代育成支援対策推進法に基づき「一般事業主行動計画」にて以下の目標を策定し、対策を実践しています。

  • 女性労働者の積極的な職域拡大
  • 年次有給休暇取得を推進するための措置
  • インターンシップの受入拡大、地域の子供達の工場見学実施

2005年から2年においては「男性の育児参加促進実施事業主」の指定を受けており、男性社員も育児に参加できる職場づくりも目指しています。

朝倉染布株式会社の業績

撥水加工「dewelry(R)」をほどこした超撥水風呂敷「ながれ」は、グッドデザイン・中小企業庁長官賞(2011年)、米国グッドデザイン賞(2012年)、「red dot award: product design 2013」を受賞しています。

受賞歴
2005年「ファミリー・フレンドリー企業表彰」受賞、「男性の育児参加促進実施事業主」指定
2009年 「ちいき経済賞」ふるさとスピリット賞を受賞
2011年 「情報化優良企業表彰」奨励企業賞を受賞
2013年 「群馬県優良企業表彰・ものづくり部門」優秀賞を受賞
2015年 「がんばる中小企業・小規模事業者300社」に選定、「キャリア支援企業表彰2015」厚生労働大臣表彰を受賞
2017年 女性活躍推進法「えるぼし」三ツ星(最高位)に認定

「一般事業主行動計画」では、育児休業や時間単位の有給休暇を取り入れ、男性の職場とされていた生産現場を女性でも働きやすい環境に改善しました。

その結果、家庭と仕事を両立しながらキャリアアップを目指す女性が増え、女性社員の定着率がアップしました。

平成30年1月の時点で、女性管理職の割合は業界平均を超え、また育児休暇は100%取得、100%の女性が産休から復職するなど、女性がいきいき働く職場になっています。

この女性が生涯働きやすい職場を作る取り組みは、女性活躍推進法「えるぼし」最高位認定への道にもつながっていきました。

女性が男性の職域に入り、えるぼし取得認定を受けたことで、男女両方の意識が変わったとのこと。社員が意力的に働ける職場づくりの醸成が進んでいます。

男女問わず社員の能力を生かし、躍進を続ける朝倉染布株式会社

今回ご紹介した朝倉染布株式会社は伝統と技術を融合させ、繊維産業の低迷や人手不足といった課題を乗り越えながら、他の企業にない製品を世に送り出している企業です。

そこには、アットホームな社風と男女問わず能力を生かして働ける職場の取り組みがあります。

ライフイベントの変化があってもキャリアを手放さず働ける環境は、社員の方がお友達からもうらやましがられるとお聞きします。もちろん女性だけが優遇されているのではなく、男女が平等とのこと。

現在も様々な取り組みに挑戦する朝倉染布、今後のさらなる躍進が期待されます。

この記事の専門家

朝倉 剛太郎代表取締役社長

朝倉染布株式会社

1970年10月群馬県桐生市生まれ、49歳。1993年3月慶應義塾大学経済学部卒業、1994年長瀬産業㈱入社。財務経理担当。1997年長瀬産業とKATOLECの合弁会社Katolec Thailand出向。2001年12月長瀬産業退社。2002年1月朝倉染布㈱入社。2007年7月~現職。2008年(社)桐生青年会議所理事長、2017年県立前橋高校PTA会長兼群馬県高等学校PTA連合会会長。2006年撥水風呂敷ながれを開発、販売。現在に至る。

(本記事の情報は2020年1月時点のものです)

 

0 コメント
twitter
はてな
facebook

pagetop